遠隔医療用語集
遠隔医療・デジタルヘルス分野で使用される専門用語を体系的に解説します。AI診断支援、ウェアラブルデバイス、電子健康記録、精密医療など、テレメディスン業界を理解するための重要キーワードを網羅しています。
遠隔医療基礎
遠隔医療 (Telemedicine)
情報通信技術を活用して、遠隔地にいる医療従事者と患者の間で診療や健康相談を行う医療サービスの総称。ビデオ通話による診察、遠隔モニタリング、デジタル画像診断など多様な形態がある。2024年時点で世界市場規模は1,411億ドルに達し、年平均成長率17.55%で急拡大している。新型コロナウイルス感染症のパンデミックを契機に普及が加速し、医療アクセスの向上、通院負担の軽減、医療費削減などの効果が実証されている。
オンライン診療 (Online Consultation)
スマートフォンやパソコンを通じて、リアルタイムのビデオ通話や音声通話により医師の診察を受けるサービス。予約から決済まで全てオンラインで完結できる利便性が特徴。日本では2018年に診療報酬が新設され、2020年以降は初診からのオンライン診療も時限的に解禁された。慢性疾患の定期診察、軽症の風邪症状、皮膚疾患、精神科診療などで活用が進んでおり、処方箋も電子化されオンライン薬局との連携も可能になっている。
RPM (Remote Patient Monitoring)
Remote Patient Monitoringの略で、遠隔患者モニタリングのこと。患者の生体データをウェアラブルデバイスやホームモニタリング機器で継続的に収集し、医療従事者がリアルタイムで監視するシステム。心拍数、血圧、血糖値、体重、酸素飽和度などのバイタルサインを自動的に測定・送信し、異常値が検出されると医療チームに警告が送られる。慢性疾患管理、術後回復期管理、高齢者の見守りなどで効果を発揮し、再入院率の低減と医療費削減に貢献している。
在宅診療 (Home Healthcare)
医師や看護師が患者の自宅を訪問して行う医療サービス。従来の訪問診療に加え、遠隔医療技術を組み合わせることで、より効率的で質の高いケアが可能になっている。2024年の世界市場規模は3,725億ドルに達し、高齢化社会の進展により需要が急増している。通院困難な高齢者、重症患者、終末期ケアを必要とする患者などが対象で、遠隔モニタリングとオンライン診療を組み合わせることで、訪問頻度を最適化しながら継続的な医療提供が実現されている。
テレヘルス (Telehealth)
遠隔医療よりも広範な概念で、診療だけでなく健康教育、予防医療、医療従事者間の情報共有、医学教育など、健康に関するあらゆるサービスを情報通信技術で提供することを指す。遠隔医療が主に診療行為に焦点を当てるのに対し、テレヘルスは健康増進や疾病予防まで含む包括的な概念。フィットネスアプリ、栄養指導、メンタルヘルスサポート、禁煙プログラムなども含まれ、ウェルネス産業全体のデジタル化を推進している。
AI・診断支援技術
AI診断支援 (AI Diagnostic Support)
人工知能技術を活用して医師の診断を支援するシステム。医療画像解析、病理診断、ゲノム解析、症状からの鑑別診断など多岐にわたる。ディープラーニング技術により、膨大な医療データから特徴的パターンを学習し、人間の専門医と同等またはそれ以上の精度を達成している分野もある。特に画像診断では、肺がんのCT画像診断、皮膚がんの画像診断、眼底写真からの糖尿病性網膜症診断などで実用化が進んでおり、診断時間の短縮と見落とし防止に貢献している。
AI読影 (AI Image Interpretation)
CT、MRI、X線、PETなどの医療画像をAIが解析し、異常所見を検出・診断する技術。放射線科医の読影業務を支援し、診断精度の向上と効率化を実現する。肺結節の検出、脳卒中の早期発見、骨折の検出、がんの転移検出などで高い性能を示している。特に日本では医師の地域偏在が課題となっており、AI読影付き遠隔医療により地方でも専門的な画像診断が受けられる体制構築が期待されている。緊急性の高い所見を優先的に通知する機能により、治療開始までの時間短縮にも寄与している。
予測診断 (Predictive Diagnosis)
AI技術とビッグデータ解析により、患者の将来的な疾病リスクや病状悪化の可能性を予測する診断手法。電子健康記録、遺伝子情報、生活習慣データ、環境因子などを総合的に分析し、糖尿病、心疾患、がんなどの発症リスクを算出する。早期の予防的介入により、疾病の発症を防いだり、重症化を回避したりすることが可能になる。保険会社やヘルスケア企業が提供する健康リスク評価サービスでも活用が進んでおり、個別化された予防医療プログラムの提供に貢献している。
自然言語処理 (Natural Language Processing)
NLPとも略される、コンピュータが人間の言語を理解・生成・処理する技術。医療分野では、医師の診療記録(カルテ)の自動要約、症状記述からの疾患推定、医学論文の自動解析、患者との対話型問診などに活用されている。IBM Watson HealthやGoogle Cloud Healthcare APIなどのプラットフォームは、医療文書から重要な情報を抽出し、診断支援や研究支援を行う。音声認識と組み合わせることで、医師の音声入力によるカルテ作成も実現し、事務作業の負担軽減に貢献している。
機械学習 (Machine Learning)
データからパターンを学習し、予測や分類を行うAI技術の一分野。医療分野では、診断アルゴリズムの構築、治療効果の予測、薬物副作用の検出、患者の再入院リスク評価などに応用されている。教師あり学習、教師なし学習、強化学習など複数の手法があり、医療画像分析では特にディープラーニング(深層学習)が高い性能を示している。継続的に新しいデータで学習することで、診断精度が向上し続ける特性があり、医療AIの中核技術として位置づけられている。
ウェアラブル・デバイス
ウェアラブル診断 (Wearable Diagnostics)
身体に装着可能なデバイスにより、連続的に生体データを計測・分析し、健康状態の監視や疾病の早期発見を行う技術。スマートウォッチ、フィットネストラッカー、スマートリング、スマート衣服など多様な形態がある。2024年のウェアラブル医療機器市場は427億ドル規模に達している。心電図測定、血中酸素飽和度測定、睡眠パターン分析、転倒検知、不整脈検出など、従来は医療機関でしか測定できなかった項目が日常的に記録可能になり、予防医療と早期発見に革命をもたらしている。
医療グレードセンサー (Medical-Grade Sensor)
医療機器としての厳格な精度基準と安全性基準を満たしたセンサー。一般消費者向けフィットネストラッカーとは異なり、診断や治療判断に使用できる信頼性を持つ。FDA(米国食品医薬品局)やPMDA(日本医薬品医療機器総合機構)などの規制当局の承認を得ている製品が該当する。Apple WatchのECG機能、血中酸素測定機能などは医療グレードとして承認されており、不整脈の検出や呼吸器疾患のモニタリングに活用されている。測定精度、再現性、長期安定性が保証されている。
バイタルサイン (Vital Signs)
生命維持に関わる基本的な生理学的指標の総称。心拍数、血圧、体温、呼吸数、酸素飽和度などが含まれる。遠隔医療やRPMにおいては、これらのバイタルサインを自動的に測定・送信する機器が重要な役割を果たす。異常値の検出により、重症化の予兆を早期に察知し、適切な医療介入が可能になる。ウェアラブルデバイスの進化により、24時間連続でバイタルサインを記録できるようになり、一時的な測定では発見できなかった異常パターンの検知が可能になっている。
連続血糖測定 (Continuous Glucose Monitoring)
CGMとも略される、皮下に挿入した小型センサーにより24時間連続で血糖値を測定する技術。糖尿病患者の血糖管理を革新的に改善するツールとして普及が進んでいる。従来の指先穿刺による測定が1日数回だったのに対し、CGMは数分ごとに血糖値を測定し、スマートフォンアプリでリアルタイムに確認できる。血糖値の上昇・下降トレンドを可視化し、高血糖・低血糖のアラート機能により危険な状態を予防できる。遠隔医療と組み合わせることで、医師が患者の血糖パターンを詳細に把握し、個別化した治療調整が可能になる。
スマートウォッチ (Smartwatch)
腕時計型のウェアラブルデバイスで、健康管理機能を搭載した製品。Apple Watch、Garmin、Fitbit、Samsung Galaxy Watchなどが代表的。心拍数測定、心電図記録、血中酸素濃度測定、睡眠分析、運動量記録、転倒検知、緊急通報機能などを搭載している。医療グレードのセンサーを備えた製品では、心房細動などの不整脈を検出し、医療機関への受診を促す機能も持つ。遠隔医療プラットフォームと連携し、測定データを自動的に医療従事者と共有する仕組みも実装されつつある。
ホームモニタリング機器 (Home Monitoring Device)
自宅で使用する医療測定機器で、測定データを自動的に医療機関に送信する機能を持つデバイス。血圧計、体重計、血糖測定器、パルスオキシメーター、心電計、体温計などがある。高齢者や慢性疾患患者が定期的に測定し、データがクラウドに蓄積されることで、医師や看護師がリモートで患者の状態を把握できる。測定値が異常範囲に入ると自動的にアラートが送信され、早期の医療介入が可能になる。退院後の回復期管理や、通院困難な患者の継続的ケアに活用されている。
デジタルヘルス・プラットフォーム
デジタルヘルス (Digital Health)
情報通信技術、AI、ビッグデータ、IoTなどのデジタル技術を活用して、医療・健康サービスを提供・改善する分野の総称。オンライン診療、ウェアラブルデバイス、健康管理アプリ、電子健康記録、AI診断支援など広範な領域を含む。2025年時点で世界市場規模は6,595億ドルに達し、2030年までに2兆3,934億ドル(年平均成長率29.1%)への急成長が予測されている。予防医療、個別化医療、医療アクセスの向上、医療費削減など、従来の医療システムが抱える課題解決に貢献することが期待されている。
電子健康記録 (Electronic Health Record)
EHRとも略される、患者の医療情報をデジタル化して管理するシステム。診療記録、検査結果、処方歴、アレルギー情報、予防接種記録などを一元管理する。Epic、Cerner、allscriptsなどの主要ベンダーが提供するEHRシステムは、AI分析機能や予測診断支援機能を統合した包括的プラットフォームに進化している。異なる医療機関間でのデータ共有により、重複検査の回避、情報伝達ミスの防止、緊急時の迅速な既往歴参照が可能になる。遠隔医療プラットフォームとの統合により、オンライン診療でも完全な医療記録にアクセスできる。
患者ポータル (Patient Portal)
患者が自身の医療情報にオンラインでアクセスできるWebプラットフォーム。検査結果の確認、予約管理、処方箋の閲覧、医療費の確認、医療従事者との安全なメッセージング、健康教育コンテンツへのアクセスなどが可能。MyChart、FollowMyHealthなどが代表的。患者の医療への積極的参加(patient engagement)を促進し、治療アドヒアランスの向上、医療満足度の向上、医療従事者とのコミュニケーション改善に貢献している。スマートフォンアプリ版も提供され、いつでもどこでも医療情報にアクセスできる利便性が評価されている。
相互運用性 (Interoperability)
異なる医療システムや医療機関の間で、医療データを正確に交換・共有できる能力。FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)などの国際標準の採用により実現が進んでいる。専門医への紹介時の情報共有、薬局での処方薬確認、救急搬送時の既往歴参照、地域医療連携などで重要な役割を果たす。データの形式やコード体系が統一されることで、システム間の円滑なデータ交換が可能になり、医療の質と効率が向上する。各国政府も相互運用性の実現を政策課題として推進している。
FHIR (Fast Healthcare Interoperability Resources)
医療情報システム間のデータ交換を容易にするための国際標準規格。HL7(Health Level Seven International)が策定した最新の標準で、Web技術(REST API、JSON、XML)を活用した現代的な設計が特徴。従来のHL7 v2やCDAと比較して、実装が容易で拡張性が高い。患者情報、診察記録、処方情報、検査結果などの「リソース」を定義し、異なるシステム間で標準化された形式でやり取りできる。Apple Health、Google Fit、Microsoft Azure Health Botなどの主要プラットフォームがFHIRに対応している。
医療DX (Medical Digital Transformation)
医療分野におけるデジタルトランスフォーメーション。デジタル技術を活用して医療サービスの提供方法、業務プロセス、組織文化を根本的に変革すること。電子カルテの導入、オンライン診療の実施、AI診断支援の活用、業務自動化、データドリブンの経営など多岐にわたる。2026年は「医療×DX」が注目される年とされ、高齢化社会を支える重要な戦略として位置づけられている。日本政府も医療DX推進本部を設置し、全国医療情報プラットフォームの構築、電子処方箋の普及、診療報酬改定などを推進している。
精密医療・個別化医療
精密医療 (Precision Medicine)
個別化医療とも呼ばれ、患者一人ひとりの遺伝子情報、生活習慣、環境因子などを総合的に考慮して、最適な治療法を選択するアプローチ。従来の「平均的な患者」を想定した標準治療ではなく、個人の特性に基づいた治療を提供する。がん治療では、腫瘍の遺伝子変異を解析し、その変異に効果的な分子標的薬を選択する精密腫瘍学(precision oncology)が実用化されている。23andMe、AncestryDNA、Foundation Medicineなどの企業が、遺伝子解析データを医療意思決定に活用するプラットフォームを提供している。
ゲノム解析 (Genome Analysis)
個人のDNA配列を解読し、遺伝的特徴や疾病リスクを分析する技術。全ゲノムシーケンシング、エクソームシーケンシング、遺伝子パネル検査など複数の手法がある。がんの遺伝子変異解析、遺伝性疾患の診断、薬剤感受性の予測などに活用される。次世代シーケンサー(NGS)の技術進歩により、コストが劇的に低下し、1,000ドル以下で全ゲノム解析が可能になっている。遠隔医療と組み合わせることで、地方在住者でも専門的な遺伝カウンセリングを受けられる体制が構築されつつある。
バイオマーカー (Biomarker)
疾患の存在、進行度、治療効果などを客観的に示す生物学的指標。血液検査値、遺伝子変異、タンパク質の発現レベル、画像所見などが含まれる。がん治療では、特定の遺伝子変異をバイオマーカーとして使用し、分子標的薬の効果を予測する。糖尿病ではHbA1c、心疾患ではBNP、炎症ではCRPなどが代表的なバイオマーカー。ウェアラブルデバイスで測定可能なデジタルバイオマーカー(歩行パターン、心拍変動、睡眠の質など)も注目されており、日常的な健康モニタリングに活用されている。
薬剤ゲノミクス (Pharmacogenomics)
個人の遺伝子型に基づいて、薬剤の効果や副作用を予測し、最適な薬剤選択と用量設定を行う学問分野。同じ薬剤でも、遺伝的背景により効果や副作用の程度が大きく異なることが知られている。例えば、抗凝固薬ワルファリンの適正用量は、CYP2C9やVKORC1遺伝子の多型により大きく変動する。抗がん剤、抗うつ薬、鎮痛薬など多くの薬剤で薬剤ゲノミクス情報が活用されており、効果的かつ安全な薬物治療の実現に貢献している。遺伝子検査キットの普及により、個別化された薬物治療がより身近になりつつある。
リキッドバイオプシー (Liquid Biopsy)
血液などの体液から、がん細胞由来のDNAやRNAを検出・解析する非侵襲的な検査技術。従来の組織生検(針や手術で組織を採取)と比較して、患者への負担が少なく、繰り返し検査が可能。血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を解析することで、がんの早期発見、治療効果の判定、再発の早期検出、薬剤耐性の出現などを把握できる。遠隔医療と組み合わせることで、患者が自宅近くの検査施設で採血し、結果をオンライン診療で受け取るという利便性の高い医療が実現している。
メンタルヘルス・デジタル治療
デジタルメンタルヘルス (Digital Mental Health)
スマートフォンアプリ、ウェアラブルデバイス、オンラインプラットフォームを活用した精神疾患の予防、診断、治療、管理サービス。認知行動療法(CBT)アプリ、マインドフルネス瞑想プログラム、AIチャットボットカウンセラー、オンラインセラピーなどが含まれる。Headspace Health、Calm、BetterHelpなどが代表的サービス。精神科医療へのアクセス障壁(専門医不足、受診の抵抗感、地理的制約)を低減し、早期介入を可能にする。うつ病、不安障害、不眠症などで科学的エビデンスが蓄積されつつある。
認知行動療法 (Cognitive Behavioral Therapy)
CBTとも略される、思考パターンと行動パターンを変容させることで精神疾患の改善を図る心理療法。うつ病、不安障害、パニック障害、強迫性障害、不眠症などに有効性が実証されている。デジタルCBT(dCBT)は、アプリやWebプラットフォームを通じて治療プログラムを提供し、いつでもどこでもアクセスできる利便性がある。対話型プログラム、思考記録、行動実験、リラクセーション技法などが含まれる。一部のプログラムは医療機器として承認され、保険適用されている国もある。遠隔医療との組み合わせにより、セラピストの指導とセルフケアを統合した治療が可能になる。
AIチャットボットカウンセラー (AI Chatbot Counselor)
自然言語処理技術を活用し、テキストベースの会話を通じてメンタルヘルスサポートを提供するAIシステム。Woebot、Wysa、Replicaなどが代表的。24時間365日利用可能で、匿名性が保たれるため、人間のカウンセラーには話しにくい悩みも気軽に相談できる。認知行動療法の技法に基づいた応答により、ユーザーの思考パターンの変容を支援する。重症度が高い場合には人間の専門家への受診を促す機能も持つ。軽度から中等度の抑うつや不安症状の軽減に効果があることが研究で示されている。
マインドフルネス (Mindfulness)
今この瞬間の体験に意図的に注意を向け、評価や判断をせずに受け入れる心理的状態・実践。瞑想やヨガなどの実践により養われる。ストレス軽減、不安・うつ症状の改善、集中力向上、感情調整能力の向上などの効果が科学的に実証されている。Headspace、Calm、Insight Timerなどのアプリは、ガイド付き瞑想プログラムを提供し、初心者でも手軽にマインドフルネスを実践できる。ウェアラブルデバイスと連携し、心拍変動などの生理指標を測定することで、瞑想の効果を可視化する機能も登場している。
服薬アドヒアランス (Medication Adherence)
患者が処方された薬剤を指示通りに服用する程度。慢性疾患では長期的な服薬継続が重要だが、世界保健機関(WHO)によると長期治療の服薬アドヒアランスは先進国でも50%程度と報告されている。デジタルヘルス技術により、服薬リマインダーアプリ、スマートピルケース(服薬時刻を通知)、デジタル錠剤(服薬を電子的に記録)などが開発されている。遠隔医療と組み合わせることで、医療従事者が患者の服薬状況をモニタリングし、アドヒアランス改善のための介入が可能になる。
法規制・政策
保険適用 (Insurance Coverage)
医療サービスや医薬品が公的医療保険や民間保険の給付対象となること。遠隔医療の普及には保険適用が重要な要因となる。日本では2018年にオンライン診療料が新設され、2020年のコロナ禍で初診からのオンライン診療が時限的措置として認められた。アメリカでは州によって規制が異なるが、Medicare(高齢者向け公的保険)やMedicaid(低所得者向け公的保険)でのオンライン診療の給付が拡大している。保険適用されることで患者の自己負担が軽減され、遠隔医療サービスの利用拡大につながる。
HIPAA (Health Insurance Portability and Accountability Act)
米国の医療情報プライバシー保護法。1996年に制定され、患者の医療情報のセキュリティとプライバシーを保護するための厳格な基準を定めている。電子的に保存・送信される保護対象健康情報(PHI)について、技術的・物理的・管理的安全対策を義務付けている。遠隔医療プラットフォームやデジタルヘルスサービスは、HIPAA準拠が必須要件となる。違反には重い罰則が科され、企業のコンプライアンス体制が重視される。GDPR(EU一般データ保護規則)と並んで、グローバルな医療データ保護の基準となっている。
GDPR (General Data Protection Regulation)
EU一般データ保護規則。2018年に施行されたEU域内における個人データ保護に関する包括的な法律。医療情報は「特別なカテゴリーの個人データ」として特に厳格な保護が求められる。本人の明示的同意、データの最小化、利用目的の明確化、データポータビリティの権利、忘れられる権利などが規定されている。デジタルヘルスサービスがEU市場で展開する際にはGDPR準拠が必須となる。違反企業には最大で全世界年間売上高の4%または2,000万ユーロの制裁金が科される。日本の個人情報保護法改正にも影響を与えている。
医師法 (Medical Practitioners Act)
日本における医師の資格、義務、業務範囲などを定めた法律。遠隔医療においては、医師法第20条「無診察治療の禁止」の解釈が重要な論点となってきた。従来は対面診療が原則とされていたが、2015年の厚生労働省通知により、一定の条件下でのオンライン診療が認められた。2018年には「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が策定され、初診からのオンライン診療の要件、適切な医療提供体制、緊急時対応などが明確化された。2020年のコロナ禍で時限的規制緩和が行われ、その後恒久化に向けた議論が続いている。
電子処方箋 (Electronic Prescription)
紙の処方箋に代わり、電子的に作成・送信される処方箋。医師が診察後に電子的に処方箋を発行し、患者が指定した薬局で受け取ることができる。オンライン診療と組み合わせることで、診察から服薬まで全てオンラインで完結する利便性がある。医師の手書き文字の判読ミスによる調剤過誤の防止、薬剤の相互作用チェックの自動化、重複処方の検出などの安全性向上効果もある。日本では2023年1月から全国的な運用が開始され、マイナンバーカードを活用した仕組みが構築されている。薬局での待ち時間短縮にも貢献する。
データガバナンス (Data Governance)
組織におけるデータの管理方針、責任体制、品質保証、セキュリティ対策、利用ルールなどを定めた枠組み。医療分野では、患者データの適切な管理が法的・倫理的に極めて重要。データの収集、保存、利用、共有、廃棄の各段階でガバナンスが必要となる。医療機関やデジタルヘルス企業は、データガバナンス委員会の設置、プライバシー影響評価の実施、データ品質管理プロセスの構築などを行う。適切なデータガバナンスにより、患者の信頼獲得、規制遵守、データ品質向上、研究促進が実現される。
疾患管理・予防医療
慢性疾患管理 (Chronic Disease Management)
糖尿病、高血圧、心疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、長期的な治療と管理が必要な疾患に対する包括的ケアプログラム。遠隔医療とウェアラブルデバイスを活用することで、患者の日常的なバイタルサインや症状を継続的にモニタリングし、病状悪化の早期発見と予防的介入が可能になる。定期的なオンライン診療、服薬管理、生活習慣改善支援、患者教育などを組み合わせた多角的アプローチにより、疾患コントロールの改善、合併症の予防、QOL向上、医療費削減が実現される。
予防医療 (Preventive Medicine)
疾病の発症を未然に防ぐことを目的とした医療。一次予防(健康増進・疾病予防)、二次予防(早期発見・早期治療)、三次予防(重症化防止・リハビリテーション)に分類される。デジタルヘルス技術により、ウェアラブルデバイスでの健康データ収集、AIによる疾病リスク予測、個別化された予防プログラムの提供が可能になっている。生活習慣病の予防では、食事・運動・睡眠などの行動変容を支援するアプリが活用されている。医療費の大部分を占める慢性疾患の予防により、持続可能な医療システムの構築が期待されている。
生活習慣病 (Lifestyle-Related Disease)
不適切な食事、運動不足、喫煙、過度の飲酒、ストレスなどの生活習慣が主な原因となって発症する疾患群。糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満、心疾患、脳卒中、がんなどが含まれる。日本では医療費の約3割を生活習慣病関連が占めている。デジタルヘルス技術を活用した生活習慣改善プログラムが開発されており、食事記録アプリ、運動量測定ウェアラブル、禁煙支援アプリ、ストレス管理プログラムなどが提供されている。遠隔医療により、医師や保健師による定期的な指導とフィードバックを受けながら、生活習慣改善に取り組むことができる。
健康診断 (Health Checkup)
疾病の早期発見や健康状態の評価を目的とした定期的な医学的検査。日本では企業に年1回の従業員健康診断が義務付けられている。血液検査、尿検査、身体測定、血圧測定、心電図、胸部X線などが標準的項目。デジタルヘルスの進展により、健康診断結果のデジタル管理、経年変化の可視化、AIによる健康リスク評価、個別化された健康改善提案などが可能になっている。オンライン健康相談サービスと連携し、健診結果に基づいた生活習慣改善指導を遠隔で受けられる仕組みも登場している。
再入院予防 (Readmission Prevention)
退院後一定期間内の計画外再入院を防ぐための取り組み。特に心不全、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病などの慢性疾患では、退院後のケアが不十分だと再入院リスクが高い。RPM(遠隔患者モニタリング)を活用することで、退院後の患者の体重、血圧、症状などを継続的に監視し、悪化の兆候を早期に察知して介入できる。電話やビデオ通話による定期的なフォローアップ、服薬管理支援、患者教育なども組み合わせることで、再入院率を大幅に低減できることが実証されている。医療費削減効果も大きく、保険者や医療機関の重点施策となっている。
技術インフラ・通信
5G通信 (5G Network)
第5世代移動通信システム。従来の4Gと比較して、超高速(最大20Gbps)、超低遅延(1ミリ秒以下)、多数同時接続(1平方kmあたり100万デバイス)という特性を持つ。遠隔医療分野では、高精細な医療画像のリアルタイム伝送、遠隔手術の実現、救急車内から病院への映像伝送、多数のIoT医療機器の同時接続などが可能になる。特に遠隔手術では、外科医の操作と手術ロボットの動作の間の遅延が生命に関わるため、5Gの超低遅延性が不可欠。地方の医療過疎地域でも都市部の専門医による高度医療が受けられる可能性を広げる。
クラウドコンピューティング (Cloud Computing)
インターネット経由でサーバー、ストレージ、データベース、アプリケーションなどのコンピューティングリソースを利用する技術。医療分野では、電子健康記録の保存、医療画像の管理、AIモデルの実行、遠隔医療プラットフォームの運用などに活用される。AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどの主要プラットフォームは、医療向けのコンプライアンス対応(HIPAA準拠など)を提供している。拡張性、可用性、災害復旧能力に優れており、医療機関が自前でサーバーを運用するよりもコスト効率が高い。セキュリティ対策とデータ主権の問題には慎重な対応が必要。
IoMT (Internet of Medical Things)
医療のモノのインターネット。医療機器やウェアラブルデバイスがインターネットに接続され、データを収集・送信・解析するネットワークシステム。病院内では、点滴ポンプ、人工呼吸器、患者モニターなどの医療機器がネットワーク接続され、一元管理される。在宅医療では、血圧計、血糖測定器、体重計、ウェアラブルセンサーなどが患者の生体データを自動的に医療機関に送信する。2025年時点で全世界で数百億台のIoMTデバイスが稼働していると推定され、今後も急速に拡大する見込み。サイバーセキュリティ対策が重要な課題となっている。
セキュリティ対策 (Security Measures)
医療データを不正アクセス、漏洩、改ざん、破壊から保護するための技術的・組織的施策。暗号化、アクセス制御、多要素認証、ファイアウォール、侵入検知システム、定期的な脆弱性診断などが含まれる。医療情報は個人のプライバシーに関わる機微な情報であり、かつ生命に関わる重要性を持つため、特に厳格なセキュリティ対策が求められる。遠隔医療プラットフォームやウェアラブルデバイスは、インターネットに常時接続されるため、サイバー攻撃のリスクに晒される。HIPAA、GDPRなどの法規制遵守も必須要件となる。
テレビ会議システム (Video Conferencing System)
インターネットを介して音声と映像をリアルタイムに送受信し、遠隔地の複数者間でコミュニケーションを可能にするシステム。オンライン診療の基盤技術として不可欠。医療用途では、一般的なZoomやTeamsに加え、HIPAA準拠の医療専用プラットフォーム(Doxy.me、VSee、SimplePracticeなど)が使用される。高画質映像により、皮膚疾患の視診、患者の表情や動作の観察が可能。画面共有機能により、検査結果や教育資料の説明も効果的に行える。暗号化通信、待合室機能、電子カルテ連携などの医療特化機能が重要視される。